『全裸監督村西とおる伝』原作者、本橋信宏によるノンフィクション。
芸者、風俗、東電OL事件……
色と欲の匂いに
誘われて――
路地と坂の迷宮を探訪するディープ・ルポ。
文庫版増補30ページ!
渋谷は「谷」である。谷底の渋谷駅からスクランブル交差点を渡って道玄坂をのぼり、坂道を右に折れると、そこは円山町。かつて都内有数の花街として栄えたこの街は、謎多きあの東電OL殺人事件の現場でもあった。街の生き字引や現役芸者、風俗店主らの肉声を採取し、事件の痕跡を辿る。色と欲の匂いに誘われて、路地と坂の迷宮を探訪するディープ・ルポ。
■著者はしがき(抜粋)
渋谷は、地名が表すように「谷」でできている。
谷底は渋谷駅であり、駅前のスクランブル交差点は谷底に流れ落ちる水滴のように人々が集まり、そして四散していく。
(中略)道玄坂をのぼり、坂上を右に曲がると円山町がある。
円山町を下ると神泉という湧き水の出る地があり、ここの水を湧かした弘法湯の傍らに料理旅館と芸妓屋ができたことから、円山町は花街として栄えていく。
大正二年(一九一三)、料亭・置屋、待合の三つがそろった三業地に指定され、大いに賑わいだす。(中略)
昭和五十二年の地図を見ると、現在のラブホテル街に近づいている。(中略)
バブル期を経て、料亭が土地を手放し、ラブホテルはさらに増えていく。
ラブホテル街は、迷宮の街のように複雑に入り組んでいる。(中略)
私にとっての円山町は一九九七年、いまから十八年前、ある事件を取材したときの印象が強烈に残っていた。
東京電力に勤務する慶應義塾大学卒のエリート女性社員が、円山町のうらびれたアパートの空き室で殺害される事件が起きた。
彼女は夜ごと、円山町に立ち、体を売る、フリーランスの街娼、俗に言うたちんぼだった。
昼と夜の顔の落差があまりにも大きかったために世間が震撼し、多くのメディアが円山町に殺到した。その中の一人に私がいた。(中略)
真犯人はまだ捕まっていない。
私たちは何度も迷路に迷いながら、この街を活字にして残そうと思った。
小高い丘が私を惹きつける。
■目次
・花街の記憶
・円山芸者
・丘の上のホテル街
・風俗の街として
・十八年目の東電OL事件
・密会場所に向かう女たち
・死と再生の街
■著者 略歴
1956(昭和31)年埼玉県生れ。ノンフィクション作家。早稲田大学政治経済学部卒業。ノンフィクション・小説・エッセイ・評論と幅広い活動を行う。2019(令和元)年、『全裸監督村西とおる伝』がNetflixでドラマ化
■書誌情報
・発行:新潮社
・発行;2020年
・文庫 / 320ページ